社長コラム
2020年03月04日 12:28
先週(2020年2月23日)の突然のマハティール首相の辞任と与党連合(パカタン・ハルパン)の崩壊そしてムヒデイン新首相の誕生と言う劇的な政治ドラマの背景と今後の見通しを私見を交えて、述べて見たいと思います。
まずマハティール首相の突然の辞任の裏には、与党連合(パカタン)内の亀裂・対立があります。2018年5月の総選挙でマレーシア独立(1957年)以来始めて政権交代となりましたが、その原動力がマハティール元首相率いる党(ベルサト)とアンワール・イブラヒム元副首相の率いる党(PKR)、更に中国系マレーシア人が中心の党(DAP)の連合でした。
2018年5月マハティール元首相が92歳で2度目の首相に帰り咲いた際に、連合内で数年以内にアンワール氏に首相を譲ると言う約束がされ、それは何度も幅広く国内外に報道されて来ました。2020年に入り、マハティール氏は94歳を過ぎ、そろそろアンワール氏に首相の座を譲るべきと言う意見が政府内に高まりました。
同時に与党(パカタン)内でアンワール氏と彼の元秘書であり現在経済担当大臣のアズミン・アリ氏との確執が深刻化し、党内分裂の可能性が囁かれる様になりました。アズミン氏はアンワール氏の首相就任を阻止しようとした動きを繰り返しており、マレー人(イスラム系)が中心の野党Umno、更にイスラム主義を唱える野党Pasに働き掛け、新たな野党連合を結成し、マハティール氏が率いる与党連合のベルサト党の与党からの脱退を促したと思われます。
但しマハティール氏は、腐敗体質のUmno党との連合を拒否し結果的に首相辞任、自らの党(ベルサト)からも党首辞任という選択を選びました。その結果、ベルサト党のNo.2だったムヒデイン氏がベルサト党の党首になり、彼はベルサト党として与党脱退し、野党連合に加わる決断をしました。その結果野党連合が下院の過半数を占める事になり、突然の政権交代とムヒデイン氏の第8代新首相就任となりました。
但し最新ニュースとして、マハティール氏は与党(パカタン・ハルパン)に残り、マハティール氏に従いベルサト党から脱会し与党に鞍替えした議員も出て来て、結果的に再度与党が過半数を獲得したと言う報道もあります。次回の国会でその数を武器にムヒデイン新首相に不信任案を提出するとされています。その結果により、再再度マハティール氏が首相に帰り咲く可能性もありますし、総選挙により新たな首相を選ぶ道も出て来ます。
大衆の多くは今回の突然の政変を、大衆の意志を無視した政治家達の利害調整の為の裏口工作政権と非難しています。特に次期首相と認められたアンワール氏を差し置いてダークホース的なムヒデイン氏が首相になった事、更にマハティール氏が与党に留まる事になった事もあり、再度大きな政変が起きる可能性も十分にあると言えます。
マレーシア政治の難しい点は、マレー系(約66%)、中華系(約24%)、インド系(約7%)と言う多民族の利害を調整し、イスラム教と他宗教を如何に共存させるかと言う点です。今回の与党(パカタン・ハルパン)の崩壊の理由の一つに与党内の議員構成もあったと言えます。人口比に反して与党の議員数は半分以上が非イスラム系議員(特に中華系議員)で占められていた事もあり、国内のイスラム系住民(マレー系)からはマハティール氏の後にアンワール氏が首相になる事に抵抗を頂いて人もいたのは確かです。
私の私見としては、ムヒデイン氏はマハティール氏の様な指導力やカリスマ性は無く、腐敗体質のUmno党、イスラム主義のPas等と連合を組む事に合意し、今のマレーシアの首相に適した人物では無いと思います。
都市部のマレーシア人(特に教育水準の高い)の多くは、民族、宗教を越え、優秀な人材がリーダーになり、マレーシア経済を牽引し、多民族、多宗教が仲良く共存する社会を望んでいます。ムヒデイン新首相の下では、また以前の腐敗政治、イスラム中心主義が戻って来る可能性が有り、有識者(特に中国系やインド系住民)は皆それを心配し始めています。
更に私はマハティール氏自体の対応の不明確さが、今回の政変の引き金になったと思います。彼自身何度も次期首相はアンワール氏と明言しており、前回の総選挙で政権交代が実現でき、首相に帰り咲き出来たのもアンワール氏の支援あっての事は明白です。にも関わらずマハティール氏がアンワール氏を次期首相にするという公約をどこまで本気で守ろうとしていたか多くの国民が疑問視しています。全て自分の思い通りに国政を動かそうと言うワンマンなマハティール氏の言動も見て取れます。
建国の父と言われマレーシアをここまで牽引して来たマハティール氏ですが、94歳の高齢の今次の世代にしっかりとバトンタッチする(アンワール氏に引き継ぐ)時期と私は思います。
今後のマレーシア政治は更なる政変も想定され、目を話せない状態が続きそうです。